ゆずとみかんといちご

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中村屋ファミリー密着取材特番をみて考えたこと

テレビの年末特番で歌舞伎の中村屋ファミリー一年密着取材、みたいなのをやっていた。

歌舞伎は高校の何かの授業で観る機会があって、そのときは義経千本桜か何かだったんだけど役者がとても綺麗な所作をしていたのをすごく覚えてる。

小さい頃バレエをほんのちょっとだけやってたせいか、バレエも (ネットで) 観るのが好きなんだけど、とにかく動きが美しい。「人間ってこんなに美しく動けるんだ…」と食い入るように見つめてしまう。それと同じように歌舞伎を観たときも「ほう…」とため息が漏れるほど感動して、お金がなくて全然公演には行けてないんだけど、テレビで歌舞伎の特番とかやってるとつい見てしまったりしてた。

で、今回の特番。

話としては、中村屋は2012年に勘三郎さんが亡くなり、今年、勘九郎さんの息子の勘太郎さんと長三郎さんが初舞台を踏んだ。勘九郎さんと弟の七之助さんを筆頭として勘三郎さんの遺志を次の世代へ継いでいく、みたいな流れ。その中で自分が面白いなと思ったのはお稽古場の取材内容だった。

八月納涼歌舞伎の演目「野田版 桜の森の満開の下」。演出の野田さんは初日から千穐楽まで毎日毎日欠かさず「駄目出し」をするために勘九郎さんの控室を訪れる。

「駄目出し」というのは、公演をみた演出家が反省点・改善点を役者に伝えることなんだけど、野田さんの駄目出しはかなり多くて細かい。勘九郎さんはそれを一度聞いただけで全部覚えて、特に練習をすることもなくそのまま舞台へあがっていく。

19日間毎日毎日、そうやって駄目出しを繰り返して一つの舞台をより完成させていく。だから一日として同じ演技はないのだそうだ。

この内容をみたときに、不覚にも「あぁ、アジャイル…」と思ってしまった。これが社会人になったということか…やだやだ。

さて、野田さんの駄目出しを聞いてると

  • 役者の演技をみて演技や台詞を変更する
    • 盛り上がる場面なのに動きが小さく見えてしまってもったいないのでこういう動きをした方がいい etc.
  • お客さんの反応をみて演技や台詞を変更する
    • ウケ狙いの台詞にブレスを入れてみたらコミカルな雰囲気に反してしまって全くウケなかったのでブレスなしがいい etc.

の2パターンにだいたい分かれそうな気がした。野田さんの駄目出しには必ず、実際に自分で見て、お客さんの反応をみることで作られた根拠があった (実は他の人の駄目出しもそうなのかもしれないし、野田さんの性格なのかもしれないし、よく分からないんだけど)。

ただ、勘九郎さんがあれだけ膨大な量の駄目出しを一度聞いただけで覚えてしまえるのは、勘九郎さんの技量の高さや頭の良さ、経験の豊富さに加えて、この「根拠をきちんと伝えていること」ということも力を貸しているのではないかと、駄目出しされる前に「えーもうないでしょ〜」という勘九郎さんが、駄目出しされているとき「あ〜〜〜そうですね、そっか〜〜〜」と納得するその反応を見ていて思った。

  • ディレクションする側は毎回きちんと自分の目やお客さんの反応を元に改善点を示し、プレイヤーを納得させる。
  • プレイヤーは一度納得したら全てを自分のものにして最高のパフォーマンスを見せる (プレイヤー自身もお客さんの反応は見ている)。

これの繰り返し。回顧と反復。何かを作るということなんだなぁと思った。

この毎日駄目出しスタイルは勘三郎さんと野田さんが始めたことなんだそうで、年代的にも業界的も、きっと彼らは「アジャイル」だとか「PDCA」だとかいう単語は知らなかったんだろうと推測する。だけどとても近いことをやってた。厳しいお稽古に加えてこれをやるから、歌舞伎の舞はあんなにも廃れず美しいのかもしれないとか考えてしまった。

あんまりテレビ番組で心が動くということがないんだけど、今回は不覚にも思考を働かせてしまったので、せっかくだしこのふわっとした思考を綴っておこうと思った。回顧と反復というわけでもあるし、こういう雑な記事でいいのでイテレーション短くできたらいいな。

あと来年こそは歌舞伎を観にいこうと心に決めた。温泉で地方にいくついでに歌舞伎も観る。よさそう。